コラム
2026/08/28
著者:
一条 紗良

Tucleの読者の皆様、こんにちは。
私たちが毎日当たり前のように見ている「色」。
リンゴは赤く、葉っぱは緑、そして空は青い。私たちは自分の目を信じて疑いませんが、もし「あなたが見ているその色は、実はそこには存在しない」と言われたら、信じられますか?
今回は、自然界や最先端テクノロジーに隠された神秘的な色の仕組み「構造色(こうぞうしょく)」について徹底解説します。
スーパーでよく見かけるあのフルーツや、子どもの頃に遊んだシャボン玉、そして高級車レクサスに至るまで。実は、私たちの目に見えているものと「実際の色」は違うという、驚きの事実をご紹介しましょう。
私たちが普段目にする色の多くは「色素」によるものです。絵の具やインク、洋服の染料などは、特定の光を吸収し、残った光を反射することで色を出しています。例えば、赤いリンゴは「赤以外の光を吸収する色素」を持っているため、反射した赤い光だけが私たちの目に届き「赤い」と認識されます。
しかし、「構造色」はこれとは全く異なるアプローチで色を生み出します。
構造色には、そのもの自体に「色素」はありません。その代わり、物質の表面にナノメートル(1ミリの100万分の1)単位の極めて微細なデコボコや多層構造が存在しています。そこに光が当たると、光の波が複雑に反射し合い、特定の波長(色)だけが強め合ったり、打ち消し合ったりする「光の干渉」という現象が起きます。
つまり、「形(構造)」が光を操ることで、私たちの脳に特定の「色」を見せているのが構造色なのです。色素がないのに色が見えるなんて、まるで手品のようですよね。
この構造色、実は特別な場所に行かなくても、私たちの身の回りにたくさん存在しています。代表的なものをいくつか見ていきましょう。
朝食のヨーグルトに入れたり、目に良いフルーツとして親しまれている「ブルーベリー」。その名の通り美しい青紫色をしていますが、驚くべきことにブルーベリーには「青い色素」が含まれていません。
2024年初頭、イギリスのブリストル大学の研究チームが発表した論文は世界中を驚かせました。ブルーベリーを潰すと、果汁は赤紫色(アントシアニンという色素の色)になりますよね。では、なぜ表面はあんなに綺麗な青に見えるのでしょうか。
その秘密は、果実の表面を覆っている「白い粉(ブルーム)」と呼ばれる極薄いワックス層にありました。このワックス層は特定のナノ構造を持っており、青色と紫外線の光だけを強く反射するようにできていたのです。つまり、ブルーベリーの青は色素によるものではなく、構造色による「錯覚」のようなものだったのです。
一番身近で分かりやすい構造色の例は「シャボン玉」です。 シャボン玉の液そのものは無色透明ですが、膨らませて空中に飛ばすと、表面にピンクや緑、青など、美しい虹色がゆらゆらと浮かび上がりますよね。
これは「薄膜干渉(はくまくかんしょう)」と呼ばれる構造色の一種です。シャボン玉の極めて薄い膜の「表面で反射した光」と、「膜の裏側で反射した光」がズレて重なり合うことで、特定の光が強められて色として見えます。重力や風によって膜の厚さがミクロのレベルで常に変化するため、見える色もリアルタイムで変化し続けるのです。
構造色の代名詞とも言えるのが、中南米の熱帯雨林に生息する「モルフォチョウ」です。「生きている宝石」とも呼ばれるこの蝶は、目を奪われるような鮮やかでメタリックなブルーの羽を持っています。

しかし、モルフォチョウの羽には青い色素は一切ありません。もし羽をすりつぶして粉にしたら、ただの茶色い粉になってしまいます。 羽の表面にある鱗粉(りんぷん)を電子顕微鏡で拡大すると、まるで「クリスマスツリー」のような規則正しい多層のヒダが並んでいます。この複雑なナノ構造が、光の中の青い波長だけを強力に反射するようにできているのです。色素は紫外線などで退色してしまいますが、構造色であるモルフォチョウの羽の輝きは、標本になって100年経っても色褪せることはありません。
この自然界の神秘的なメカニズムを、人間がテクノロジーの力で人工的に再現しようとする試み(バイオミメティクス=生物模倣)が進んでいます。その最も美しく、そして困難な挑戦のひとつが、自動車のボディカラーへの応用でした。
日本を代表する高級車ブランド「レクサス(LEXUS)」は、モルフォチョウの羽の輝きに魅せられ、「色素を含まない青い塗料」の開発に挑みました。

一般的な青い車の塗装は青い顔料を使いますが、それだと光の吸収が起きるため、どうしても濁りや暗さが出てしまいます。レクサスはアメリカの顔料メーカーと協力し、ナノレベルの多層構造を持つ特殊なフレークを開発。なんと15年もの歳月をかけて、ついに「ストラクチュアルブルー」という全く新しいボディカラーを完成させました。
この塗料には青い色素が一切入っていません。しかし、光が当たると、塗膜内のナノ構造が光をコントロールし、人間の目には信じられないほど深く、鮮やかで、圧倒的な透明感を持つ「究極の青」として映るのです。見る角度や光の当たり方で表情を大きく変えるこの色は、まさにテクノロジーと自然界の知恵が融合した芸術作品と言えます。
いかがでしたでしょうか。ブルーベリーも、モルフォチョウも、そして最新のレクサスも、そこに「青い色」という物理的な物質(色素)が存在しているわけではありませんでした。あるのは光を操る精緻な「構造」だけです。
私たちが「見ている」と思っている世界は、実は光と物質の構造、そして人間の脳が作り出した「壮大なイリュージョン」なのかもしれません。
毎日の暮らしの中で、ふと見かけた鳥の羽や、水たまりに浮かぶ油膜の虹色、そして朝食のブルーベリー。それらを目にしたとき、「これは色素だろうか?それとも光の魔法である構造色だろうか?」と少しだけ視点を変えてみてください。
Tucleでは、これからも日常に隠されたちょっとした驚きや、知的好奇心をくすぐる情報をお届けしていきます。当たり前だと思っていた世界が、少しだけ違って、より鮮やかに見えてくるはずです。

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